雨の博物館・美術館巡り。国立東京博物館(トーハク)の「特別展 東福寺」をあとにして、国立西洋美術館で開催されている「憧憬の地 ブルターニュ」展を見に行く。
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奇しくも同じ時期に SOMPO美術館でもブルターニュをテーマにした展覧会「ブルターニュの光と風」が開かれており、そこに行ったことが今回のいい予習になった。SOMPO美術館でフランスの地方美術館所蔵のたぶん二度と見る機会のない作品を楽しんだのに対して、こちら西洋美術館の展覧会では、松方コレクションをはじめ 30か所を超える国内所蔵先の絵画を堪能することができる。
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ブルターニュはフランス北西部の異郷の地。ケルト人を祖とするその歴史や文化・風俗が画家たちを刺激して、小さな村からポン=タヴェン派、そしてナビ派などの新しいムーヴメントを起こした。
そして日本から留学していた洋画家たちも、その影響を受け、ブルターニュを訪れて描いている。そのような美術史の流れを辿る展覧会であった。
以下、何点か、写真撮影可能な作品とその解説をメモしておく。
1886年の滞在中にモネは「不気味な」岩々の連なる荒れた海岸の風景を繰り返し描いた。穏やかな海原と陽光を浴びる岩肌を、色彩豊かな無数の筆触が使われている。
ゴッホとの短い共同生活の後、1889年にゴーガンはブルターニュに移る。断崖を背景に素朴な農民の子供たちの姿には、ゴーガンが追求した「野性」が象徴的に表されている。単純化された輪郭、色彩の対比に、印象派からの脱却と「綜合主義」理念が示されている。
この絵はオルセー美術館所蔵のものである。最初のタヒチ滞在を経て、1894年にポン=タヴェン(村)を再訪したゴーガンは、ブルターニュの農婦を描いている。そこにはタヒチの女性たちの顔貌が投影されている。ゴーガンの「野性的なもの」への探求は、その後も続いていく。
9人の子供に恵まれたドニは、しばしば家族を作品の主題とした。本作では、シランシオの庭で子供たちが母子を取り囲む様子が、キリスト教美術の「聖家族」の図像をもとに表されており、足元のウサギは子孫繁栄の象徴である。この年は最愛の妻マルトが亡くなった年でもあり、この作品の情景の背後に画家の深い悲しみが想像される。
ブルターニュの風俗を描いた画家にシャルル・コッテがいる。ゴーガンに影響を受けたポン=タヴェン派とは違い、モーリス・ドニらとともに写実的で暗い色調の「バンド・ノワール」という画家グループに分類される。この作品では海難事故の絶えないブルターニュのサン島にて、海で命を落とした漁夫を描いている。十字架の形をなすかに見える漁船のマストや帆桁。キリストの死を哀悼する図像に依拠している。
シモンはブルターニュの婚礼やパルドン祭の縁日など、庶民の生活模様を自然主義的な態度で描いた。この作品はシモン家の子供たちが行う芝居を大人たちが見物する情景を描いている。
1886年に渡仏した久米桂一郎は、同じくコランの門下生である黒田清輝とともに 1891年と 1892年の秋にブレア島に足を運び、制作に励んだ。この作品は《晩秋》とともに久米の留学の集大成というべき大作である。ブルターニュのコワフと木靴を身につけた少女が林檎を収穫する様子を描いた本作は、その主題や陽光の表現にカミーユ・ピサロの作品が想起されるかもしれない。画面の大きさからも、翌年のサロン出品を念頭に制作したものと考えられる。