心待ちにしていた「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」を観るために、国立西洋美術館に出かける。ロンドン・ナショナル・ギャラリー 200年の歴史の中で初めて、館外での大規模な所蔵作品展であり、珠玉の作品 61点すべてが日本初公開である。
入場の時間指定がされているため、混みあうことがなく、じっくりと観て回ることができる。7つの章構成に分かれ、西洋美術の歴史を辿っていけるようになっている。各章から一つづつ作品を取り上げて、ロンドン・ナショナル・ギャラリーの学芸部長が解説している動画があり、よい予習になる。
ロンドン・ナショナル・ギャラリー展:オンライン・ガイドツアー
第1章 イタリア・ルネサンス絵画では、クリヴェッリ《聖エミディウスを伴う受胎告知》が印象に残っている。遠近法で描かれた当時のイタリアの町を舞台に、聖書に伝わる受胎告知の物語が表現されている。
第2章 オランダ絵画の黄金時代。若きレンブラントが自信にあふれている《34歳の自画像》、晩年(といっても40歳くらいだが)のフェルメールが描いた《ヴァージナルの前に座る若い女性》には窓がなく、光の描写が少ない。壁には《取り持ち女》が掛けられているが、どんな意味が込められているのだろう?
第3章はイギリスの肖像画を扱う。特にチャールズ1世の宮廷画家となったヴァン・ダイクは、王侯貴族のニーズに応えた美しい肖像画を描いている。
第4章は「グランド・ツアー」。上流階級の子息によるイタリアへの「修学旅行」のお土産として、イタリア都市景観図が持ち帰られた。カナレットは、大きな空の下に、レガッタ競技会を描いている。絵全体が与える雄大さと共に、細かく描き込まれた人々の様子が興味深い。いつまでも眺めていられる絵である。
第5章はスペインの絵画。スペイン国外では無名だったベラスケスなどの巨匠の再評価が、19世紀のイギリスから始まっている。ムリーリョの描く子供の姿が可愛らしい。
第6章は「風景画とピクチャレスク」。ターナー、コンスタブルといったイギリスを代表する風景画家たち。その源流となったクロード・ロラン、プッサンなどの絵が紹介される。絵を通して風景を眺める。絵のような風景を見る。理想の風景を絵に表現する。18世紀後半には「ピクチャレスク」の美学に関心が高まった。クロード・ロランの黄金色の空が美しい。
そして最終章である第7章にて、20世紀になってようやく評価されるようになった印象派を扱う。展覧会場には、正面にゴッホの《ひまわり》、左を向くとモネ《睡蓮の池》、右を向くとセザンヌ《プロヴァンスの丘》が見られるという贅沢な場所がある。
西洋美術史を辿るように、61点の作品が展示されており、充実した時間を過ごすことができた。
さらに詳しくロンドン・ナショナル・ギャラリーを知るには、各種書籍が参考になる。まず今回の展示会の図録(カタログ)である。装丁も素敵な図録は、オンラインでも販売されている。ナショナル・ギャラリーの成り立ち、各章の位置づけの説明があり、61点の作品一つ一つにつき、詳しい解説がされている。今回、来日していない作品についても、関連づけた説明があり、学ぶところが多い。
以下は「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」開催に合わせて、出版された本である。

ロンドン・ナショナル・ギャラリー展 完全ガイドブック (AERAムック)
- 発売日: 2020/03/03
- メディア: ムック
このムック本は、ゴッホとフェルメールに特に焦点を当てている。

カラー版 教養としてのロンドン・ナショナル・ギャラリー (宝島社新書)
- 作者:木村 泰司
- 発売日: 2020/03/04
- メディア: 単行本

ロンドン・ナショナル・ギャラリー 名画でひもとく西洋美術史 (別冊太陽 スペシャル)
- 発売日: 2020/02/27
- メディア: ムック
この二つの本は、ロンドン・ナショナル・ギャラリーの作品を見ながら、西洋美術の歴史を勉強していく本である。前者は文章、後者は絵がメインである。
ロンドン・ナショナル・ギャラリーの珠玉の美を堪能した後は、国立西洋美術館の常設展へ。ちょうど1年前の「松方コレクション展」を反映する形で、配置換えが行われていた。
常設展を観るにあたっては、国立西洋美術館の学芸員が書いた『国立西洋美術館 名画の見かた』がよいガイドになる。西洋美術館のコレクションを中心に、さまざまなジャンルの絵画を、西洋美術の大きな流れと共に解説している。『絵を見る技術 名画の構造を読み解く』と並んで、西洋絵画の鑑賞法を伝授してくれる良書である。

- 作者:秋田麻早子
- 発売日: 2019/05/02
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
歩き疲れたので、美術館内のレストラン「すいれん」でランチ。ここから見る西洋美術館の中庭は、僕の好きな光景の一つである。


久しぶりに上野に来たのだが、上野駅公園口がリニューアルしていた。駅から車道を渡らなくても、上野公園に行けるようになっている。逆に言えば、車は左右のロータリーでUターンさせられ、公園口の前を通過することができなくなっていた。