Muranaga's View

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イギリスの珠玉の美を堪能する「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」(国立西洋美術館)

心待ちにしていた「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」を観るために、国立西洋美術館に出かける。ロンドン・ナショナル・ギャラリー 200年の歴史の中で初めて、館外での大規模な所蔵作品展であり、珠玉の作品 61点すべてが日本初公開である。

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「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」(国立西洋美術館

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入場の時間指定がされているため、混みあうことがなく、じっくりと観て回ることができる。7つの章構成に分かれ、西洋美術の歴史を辿っていけるようになっている。各章から一つづつ作品を取り上げて、ロンドン・ナショナル・ギャラリーの学芸部長が解説している動画があり、よい予習になる。


ロンドン・ナショナル・ギャラリー展:オンライン・ガイドツアー

第1章 イタリア・ルネサンス絵画では、クリヴェッリ《聖エミディウスを伴う受胎告知》が印象に残っている。遠近法で描かれた当時のイタリアの町を舞台に、聖書に伝わる受胎告知の物語が表現されている。

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カルロ・クリヴェッリ《聖エミディウスを伴う受胎告知》(1486年)

第2章 オランダ絵画の黄金時代。若きレンブラントが自信にあふれている《34歳の自画像》、晩年(といっても40歳くらいだが)のフェルメールが描いた《ヴァージナルの前に座る若い女性》には窓がなく、光の描写が少ない。壁には《取り持ち女》が掛けられているが、どんな意味が込められているのだろう?

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レンブラント《34歳の自画像》(1640年)

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フェルメール《ヴァージナルの前に座る若い女性》(1670-72年頃)

第3章はイギリスの肖像画を扱う。特にチャールズ1世の宮廷画家となったヴァン・ダイクは、王侯貴族のニーズに応えた美しい肖像画を描いている。

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ヴァン・ダイク《レディ・エリザベス・シンベビーとアンドーヴァー子爵婦人ドロシー》(1635年頃)

第4章は「グランド・ツアー」。上流階級の子息によるイタリアへの「修学旅行」のお土産として、イタリア都市景観図が持ち帰られた。カナレットは、大きな空の下に、レガッタ競技会を描いている。絵全体が与える雄大さと共に、細かく描き込まれた人々の様子が興味深い。いつまでも眺めていられる絵である。

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カナレット《ヴェネツィア:大運河のレガッタ》(1735年頃)

第5章はスペインの絵画。スペイン国外では無名だったベラスケスなどの巨匠の再評価が、19世紀のイギリスから始まっている。ムリーリョの描く子供の姿が可愛らしい。

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ムリーリョ《幼い洗礼者ヨハネと子羊》(1660-65年)

第6章は「風景画とピクチャレスク」。ターナー、コンスタブルといったイギリスを代表する風景画家たち。その源流となったクロード・ロラン、プッサンなどの絵が紹介される。絵を通して風景を眺める。絵のような風景を見る。理想の風景を絵に表現する。18世紀後半には「ピクチャレスク」の美学に関心が高まった。クロード・ロランの黄金色の空が美しい。

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クロード・ロラン《海港》(1644年)

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コンスタブル《コルオートン・ホールのレノルズ記念碑》(1833-36年)

そして最終章である第7章にて、20世紀になってようやく評価されるようになった印象派を扱う。展覧会場には、正面にゴッホの《ひまわり》、左を向くとモネ《睡蓮の池》、右を向くとセザンヌプロヴァンスの丘》が見られるという贅沢な場所がある。

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クロード・モネ《睡蓮の池》(1899年)

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ゴッホ《ひまわり》(1888年

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セザンヌプロヴァンスの丘》(1890-92年頃)

西洋美術史を辿るように、61点の作品が展示されており、充実した時間を過ごすことができた。

さらに詳しくロンドン・ナショナル・ギャラリーを知るには、各種書籍が参考になる。まず今回の展示会の図録(カタログ)である。装丁も素敵な図録は、オンラインでも販売されている。ナショナル・ギャラリーの成り立ち、各章の位置づけの説明があり、61点の作品一つ一つにつき、詳しい解説がされている。今回、来日していない作品についても、関連づけた説明があり、学ぶところが多い。

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図録

以下は「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」開催に合わせて、出版された本である。

このムック本は、ゴッホフェルメールに特に焦点を当てている。

この二つの本は、ロンドン・ナショナル・ギャラリーの作品を見ながら、西洋美術の歴史を勉強していく本である。前者は文章、後者は絵がメインである。

ロンドン・ナショナル・ギャラリーの珠玉の美を堪能した後は、国立西洋美術館の常設展へ。ちょうど1年前の「松方コレクション展」を反映する形で、配置換えが行われていた。

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常設展を観るにあたっては、国立西洋美術館学芸員が書いた『国立西洋美術館 名画の見かた』がよいガイドになる。西洋美術館のコレクションを中心に、さまざまなジャンルの絵画を、西洋美術の大きな流れと共に解説している。『絵を見る技術 名画の構造を読み解く』と並んで、西洋絵画の鑑賞法を伝授してくれる良書である。

国立西洋美術館 名画の見かた

国立西洋美術館 名画の見かた

絵を見る技術 名画の構造を読み解く

絵を見る技術 名画の構造を読み解く

  • 作者:秋田麻早子
  • 発売日: 2019/05/02
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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歩き疲れたので、美術館内のレストラン「すいれん」でランチ。ここから見る西洋美術館の中庭は、僕の好きな光景の一つである。

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久しぶりに上野に来たのだが、上野駅公園口がリニューアルしていた。駅から車道を渡らなくても、上野公園に行けるようになっている。逆に言えば、車は左右のロータリーでUターンさせられ、公園口の前を通過することができなくなっていた。

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上野駅 公園口

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